時のかけら
あっ……また。
哲哉さんって、あたしのことなんかお構いなしに着替え始める。
多分、本人無意識?
それともあたしのこと女として見ていないのかな……。
あ、いや、違う違う。
女としてっていうのは、好きになって欲しいとか一人の女として意識して欲しいとか、そういう意味じゃなくて。
その他大勢の女の中の一人として、やっぱり女の前で着替えるのはどうなのって意味で……。
あたし、何一人でアタフタしてるんだろ。
ハァ……と小さくため息をつきながら、静かにダイニングに移動した。
哲哉さんの為に作った料理を少しだけ温め直し、盛り付けの準備をする。
二人分のお箸にお茶碗、そしてお皿。
朝と夜は必ず二人で一緒に食事をしている。
あたしと哲哉さんは他人。
だけどその時ばかりは、家族の温もりを感じられた。
きっとね、お父さんとお母さんがいて食卓を囲んで食事をしたら、こんな風に温かいんだろうな。
「手伝うよ?」
「あ、うん。これ運んでもらっていい?」
隣の部屋からひょっこり顔を出した哲哉さん。
いつも通りの白いTシャツに黒のハーフパンツ姿。
何だか、その格好を見ると安心する。
あぁ……哲哉さん帰ってきたんだなって。