時のかけら
「だから……」
伸びてきた手があたしの頭を優しく撫でる。
哲哉さんの癖かな。
こうやってあたしの頭をよく撫でてくれる。
大きくて温かい手に、いつも穏やかな気持ちになれるんだ。
「本当にルリが嫁に来たら幸せなんだろうな〜なんて思うんだよね!」
前言撤回――。
あたしの心臓はバクバクと激しい音を立てて鳴りだした。
どうしてこうも、歯の浮くような台詞をサラッと言ってしまうの?
あたしのほうが恥ずかしくて直視できなくなるし。
鳴り止まない心臓。
何か、何か言わないと!
「ありがとう」
あたしは声がうわずらないように必死だった。
それにしてもさっきから“ありがとう”って言ってばかり。
その気持ちは常にあるわけだけど、それ以外何か言えなかった?
と、自問自答せずにはいられなかった。
これじゃあ、あたしが哲哉さんにドキドキしているってばれそう。
何か話題変えないと……。
そう思ったあたしは、頭の中で考えるより先に言葉が出ていた。
「そうそうあの鰺ね、魚屋のおじちゃんがくれたんだよ!」