時のかけら

その瞬間ハッとした。


思い出したあの単語……。



哲哉さんの“元カノ”




「へぇ〜、鯵もらったんだ。でも、また何でくれたの? ……ってどうしたの!?」



「えっ、あ、何か変?」



「うん。眉間にシワ寄ってるし、何だか今にも泣きそう」




思い出しただけでズキズキと痛む胸。



哲哉さんのことになると、どうしてこんなにも胸がざわつくんだろう。




「大丈夫、何でもないよ」




言えるわけがない。


言ったら何かが壊れそうで……。




「胸貸そうか?」



「いいです! 本当に大丈夫!」




あたしは哲哉さんの誘いを慌てて拒否した。


そんなことしたら余計胸の治まりが効かなくなるから。



あたしを不安げに見つめる哲哉さんは、きっと真剣に言ってくれたんだと思う。



だけど、無理。



ズキズキなんだかドキドキなんだか、訳の分からないことになるに決まっている。




「俺はいつでも胸貸すから、だから一人で抱え込んで悩まないで。話したくなったらいつでも聞くからね」




グチャグチャになりかけたあたしの心に、哲哉さんの優しい言葉が届く。



無理矢理作った笑顔も、いつしか本当の笑顔へと変わっていった。




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