時のかけら
店の外はさっきよりも街の灯りが減っていて薄暗く、少し物寂しく感じた。
「今日はもう遅いし、どうするかは明日決めようか?」
そう言って目にした彼の腕時計は、22時を少しまわったところをさしていた。
チク……タク……チク……タク……
静かな夜の街に腕時計の秒針の音が鳴り響く。
彼は黙って傍にいるあたしの手をそっと握り、優しく微笑みかけてくれた。
まるで迷子の子どもを連れていくかのように、夜の街を歩き始める。
繋いだ手が温かくて……。
彼の指先から伝わる優しさに心を震わる。
不安で押しつぶされそうだったあたしの心は、小さな安らぎを感じた。
そして、やっぱり彼から懐かしさを感じていた。
あたしの存在が確かにここにあるって、そう気付かせてくれるような……。
そんな彼の手から伝わる温もりに……
「……ック……ヒ……ッ」
知らずのうちに声を押し殺して涙を流していた。
そんなあたしに気付いた彼は立ち止まり、包み込むように抱き締めてくれた。