時のかけら
ようやく待ち望んだ週末。
行きたいところを考えていなかったあたしは哲哉さんの車に乗って、今からどこに連れていってもらえるのかと心を踊らせていた。
だって、いつもは仕事だから長い時間一緒にいれないしね。
一人で寂しい思いをしなくていいと思うと、本当に嬉しくて仕方がなかった。
それは相手が誰でもいい……ってわけでもないかな?
チラリと横目で哲哉さんを見る。
「海と言えば?」
「ふへっ?」
あまりのタイミングの良さに、今度は間抜けな声を出してしまった。
急に恥ずかしくなって、顔に手を当てて俯く。
そんなあたしを見てか、さっきからずっと笑いっぱなしの哲哉さんは、
「フフフッ。海と言えば“水着”
というわけで買いに行こうか?」
なんてことを言いだして、今度は頭の中が真っ白。
あたしが顔を上げて目をパチクリさせていると、
「ルリってば反応が可愛いから、ついからかいたくなっちゃうんだよな〜」
そんなことを言うだけ言って、サッと視線を前方に戻すと同時に車が発進した。
運転しながら未だ笑っている哲哉さんの姿を見て、ようやく肩の力がフッと抜けた。
哲哉さんだってからかうと反応可愛いんだから、なんて心の中で細やかな反抗。
あたしは熱くなった頬に手を当てて、窓から流れてくる涼しい風を受けて熱を覚ましていた。