時のかけら
「泳ぐつもりだった?」
「アハハッ、ばれた?」
顔をクルッとあたしに向けて、あどけなく笑いかけてくる。
「うん、今チラッと見えたんだよね」
バッグの中に水着らしきものが。
あたしは日焼け止めのケースを上下に振って蓋を開け、手の甲に乗せて伸ばし始めた。
「ルリが水着買うって言えば一緒に泳ごうかな〜なんて思って」
「哲哉さんって泳ぐのが好きなの?」
“水着”という単語に胸をドキドキさせてはいたけれど……。
哲哉さんの声色があまりにも普通だったから、あたしも平然を装って日焼け止めを塗りながら聞いてみる。
運転席で日焼け止めを塗るでもなく、ただ、ハンドルに両手を乗せてあたしに顔を向けている哲哉さん。
フッと息を漏らすと、遠い目をした。
「ルリの水着姿が見たくてね〜」
「そっか、ごめんね……って、何言ってるのよ! 哲哉さんの変態っ!!」
「アハハッ、怒った顔も可愛いよ」
哲哉さんに思いっきり笑われて、からかわれているんだと一瞬思った。
だけど……
こういうやりとり前にもあったよね。
初めて会った日……。
もしかして、今もあたしを元気づけようとしてくれてるの?
そう思えて仕方がないあたしは、つい口に出していた。
「哲哉さん、あたし元気だよ?」