時のかけら
「はい、えっ……分かりました……」
哲哉さんに声をかけようとした瞬間。
いつもの明るく柔らかな物言いではなく、緊張感のある低い喋りが聞こえてきた。
どうやら携帯で誰かと話しているみたい。
その声色から何となく聞いたらいけないような気がして、もう一度車内に戻っていった。
助手席の窓に頭を預け、少しだけ電話中の哲哉さんを見つめる。
右手で頭を抱えこんでうなだれる姿。
左手に持っている携帯は、哲哉さんの手にすっぽりはまるぐらい小型なものみたいだった。
誰と話しているんだろう……。
あたしがそこまで哲哉さんに踏み入れることはできない。
だけど、気になる。
だから静かに目を閉じて、何も考えないように頭の中を真っ白にしようとした。
微かに聞こえる風の音。
辺りを歩く人の足音や声。
どんな小さな音さえ研ぎ澄まされて耳に届く。
そのうち……
自分の鼓動の音さえはっきりと聞こえてきた。