たらし君の恋愛事情。
ジャ――と蛇口を捻り、水を出す。
うちの学校は結構新しい。
だからトイレもすっごくきれい。
「きれいだと嬉しいよね~。」
手をハンカチで拭きながら独り言。
中学校は古かったからすごく嫌だっただよね。
「卯川。」
ご機嫌でトイレを出たあたしを、誰かが引き止めた。
「?」
振りかえると、そこには。
「げ。」
「げってなんだ、げって。」
数学の先生、松田(まつだ)先生が…。
「い、いやぁ…。なんでもないです…。」
「そうか?なら、頼みたいことがあるんだ。」
そう言って、やけに優しく言う先生。
「これを、クラスに持って行ってくれ。」
差し出したのは、
「え゛…。これ、クラス全員分じゃないですか…。」
クラス全員分のノートとプリント。
「次、数学だろ?」
「でもっ、まだ昼休み始まったばかりですよっ!」
必死に拒否するあたし。
「どのみちクラスに持って行くんだ。教室に戻るんだろ?持って行ってくれ。」
「う…はい。」
結局、クラス全員分のノートとプリントを持って教室に戻ることになった。