夜と紅と蒼と……


 はじめて出会った……自分に安らぎをくれた人。
 無償の優しさを注いでくれた人。
 あまりに暖かかったから、気付かなかった。

 ――痛み

 彼が抱えるもの。



『助けたい』



 頭のなかで、ひときわ大きく響く声。
 気が付いたら、手が動いていた――










「あたしがいる」
 蒼太の頬を両手で挟み、その、憂いに沈む黒い瞳を覗きこむ。
「蒼太が望むだけ、ずっといる」
 強く、はっきりと。その闇の深淵に届くように……
「だから、泣くな」
 透けるように白い、その両手に触れた、濡れた感触を、ただ拭いたくて――
 紅葉は、その頬にくちづけた。


< 101 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop