夜と紅と蒼と……

 その後は蒼太の案内で、午前中は熊蔵のアトリエを見せてもらったりして過ごした。
 熊蔵は留守だったので、少し気はひけたが、蒼太が大丈夫と言うので入らせて貰う。
 中にある画は、風景や動物のものが多く、その柔らかな画風は熊蔵の人柄を写しているかのようだ。
 ひとしきり画を楽しみ、三人で昼食をとった。
 昼食後、緑と蒼太と近くの山を散策して、戻って来ると、丁度熊蔵も会合から戻ってきた。
「紅葉さんはビワは好きですか?」
「うわ、大好き!!」
 熊蔵が知人から貰ったという、ビニール袋一杯の黄色い果実は甘い爽やかな薫りをただよわせている。
 丁度、三人とも山歩きで喉も渇いていたので、有り難くビワを平らげた。
「はぁ~。疲れたぁ」
 おやつを平らげ、緑は居間の畳に寝転ぶと、うとうとと昼寝をはじめる。
 蒼太がすかさずタオルケットをもってきて丸出しのお腹にそっと掛けた。
「本当に面倒見いいよね」
「まぁ、癖みたいなもんです」
 緑は母親の顔すら知らない。
 でも、その顔に笑顔が絶えることはなく、何度その笑顔に救われただろう。
 そんな緑を蒼太はとても大切にしていた。
 子供の頃からずっと世話しているから、世話をやくのが当たり前になってしまっている。


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