夜と紅と蒼と……

「丁度よかったよ。五分後にでるのがある」
 シルバー細工のごつめの腕時計を確認しながらアキラが言う。急いで三人で乗り場へ向かった。
「アキラさん。紅葉さんお願いします」
 すでにホームに着き停車していた、出発を待つばかりの特急の前で、見送りの蒼太がアキラに丁寧に頭をさげた。
「わかってる。まかせとけ」
 アキラは蒼太の肩を軽く叩く
「今度、またゆっくり色々話そうぜ?」
 ニッと笑って見せ、先に電車に乗り込んで行く。
「すみません。ついて行ってあげられなくて」
 蒼太は紅葉に言った。
 蒼太は明日からまた仕事がある。父や緑の為にも休むわけにはいかない。
 紅葉もそれは良くわかっていた。
「ごめん。蒼太、あたしは……」
 電車の発車を告げるアナウンスが構内に流れる。
 紅葉は後ろ髪ひかれる思いで電車に乗り込み、もう一度振り返った。
「絶対、絶対戻ってくるから」
 泣きたい気持ちをこらえ、声をしぼりだす。
「はい」
 蒼太は、にっこりと、いつもの笑顔を浮かべる。
「待ってます。心配しないで」
 発車のベルが鳴り、ドアが閉まった。
 ドアの向こう、遠ざかる蒼太の姿が滲む。
 その姿を置き去りに、駅のホームを抜け、電車は夜の闇へと走りだした。


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