夜と紅と蒼と……

 律子に言われた一番奥の部屋に入ると、壁際にいくつかのベッドが並び、反対側はついたてで仕切られ、隙間から何やら医療器具らしきものが見える。
 臨時の病室らしく、他のベッドは空いていて、一番奥の窓際のほうに並んで、二人は寝かされていた。
 父は左腕をギプスで固定され、ぐるぐると包帯を巻かれ、点滴に繋がれ眠っている。
「おかぁさん」
 隣のベッドの母に目を移し、思わず声が漏れた。
 頭に包帯を巻かれ、点滴や、呼吸器をつけられ眠る母の姿に涙がでそうになる。
『どうして……』
 両手で顔を覆い、嗚咽を堪える。
 どうして、こんなに善良な人達を神様は苦しめるのだろう……
 紅葉は思った。
 産まれた子供は、厄介な疾患を抱え、無事大きくなったかと思えば家を出て心配ばかりかけ。
 その上、事故でこんな有り様。
 彼らが一体何をしたというからこんな目に遇わねばならぬというのだ。

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