夜と紅と蒼と……
「変わった髪の色ですねぇ。今はそういうのが流行りなんですかね」
タクシーのなか運転手に声をかけられ、帽子もサングラスもはずしたままだった事に気付く。
「……生まれつきです」
紅葉がボソリと言うと、ミラーごしに目があった。
「ああ、すみません。変なこと聞いてしまって」
運転手は慌てて目をそらす。
悪気はないようだ。ただ単に話題が欲しかっただけだろう。
だけど今の紅葉にとって、ぶしつけな質問は居心地の悪いものでしかない。
紅葉は傍らに置いたバッグから帽子をだし、目深に被り、サングラスをかけ、黙りこむ。
運転手も気まずくなったのかそれいじょう何も言わなかった。
『蒼太……』
窓の外、移り行く夜の風景を眺めながら蒼太を想う。
蒼太が側にいない。
ただそれだけなのに、どうしてこんなに落ち着かない気持ちになるのか――
自分がどれだけ、蒼太の存在に依存していたのか思いしらされる。