夜と紅と蒼と……
夕方、日差しが弱くなる頃、母の荷物を抱え、紅葉は病院へ向かった。
母は個室に移され、父は退院と、母の入院手続きへ行っていると看護婦から聞き、母の病室へ向かう。
母は個室で静かに眠っていた。
起こさないよう、物音に気を配りながら荷物を直していると、病室のドアが静かに開く音がして、紅葉は振り返った。
「お父さん……」
首から支えるように包帯で巻かれ、下げられた腕が痛々しい。
「紅葉……律子さんから聞いて待ってたよ」
穏やかな笑みを浮かべ、父は紅葉へ歩みよると、懐かしい大きな手で紅葉の頭をなでた。
「すまないな。心配をかけてしまって、お前も一人で頑張って大変だろうに」
「いいんだ、そんなこと。ずっと帰らなくて、ごめん」
謝りながら、久しぶりに見る父は三年の間に随分小さくなってしまった気がした。
退職するまでは張りがあり、歳より若く見られるほどだった肌のつやもなく、真っ黒だった髪にも、随分白髪が目立つ。
「心配かけたのはあたしのほうだ。ごめんなさいお父さん。ごめんなさい……」
顔を見たのと、不義理な自分に対してずっと変わらぬ優しい言葉に、自然と涙が溢れる。
泣きながら謝る娘に父は優しく言った。
「ちょっと、外にでよう」