夜と紅と蒼と……
それから暫らく他愛もないことを互いに話した。顔を合わせなかった期間を埋め合わせるかのように。
家族というものはきっとこういうものなのだ。ほんの僅かな時間会話を交わせばもう、以前と全く同じ空気で同じ空間を共に出来るようになる。
待合室で談笑したあと、二人で揃って母の病室へむかう。途中、廊下で。丁度、夜勤で出てきたばかりの律子に会った。
「律ちゃん、昨日はありがと」
「いいのよ。紅葉の顔見れたからかえって嬉しいくらい」
隣の父に聞こえないよう律子がこっそりと耳打ちした言葉に、思わず紅葉は苦笑する。
父は律子に軽くおじぎして先に部屋へ向かった。気を利かせてくれたのだろう。
「お母さん、とても安定してる。呼吸器もじきはずせそうよ。思ったよりもひどくなくて良かったわ」
母の容態を告げ律子はにっこりする。
「アキラに聞いたわよ。蒼太くんといい感じらしいじゃない。連絡した?」
「それが……」
紅葉は連絡できない理由を律子に告げた。
「そう……意外と抜けてるのねえ、二人とも。大丈夫、そのうちアキラ行かせる」
「え ?それは悪いよ」
「いいのいいの。どうせ仕事もしないでゴロゴロしてるんだから。たまには人の役にたってもらわないと」
そう言って律子はからからと笑って見せる。
「だから安心してお母さんとお父さん見てあげて?」
「うん……」
紅葉の返事を聞くと律子は、じゃあ、と手を振って、仕事に戻っていった。