夜と紅と蒼と……
「そ、そうか――」
蒼太の言葉にアキラは素面に戻る。
「そりゃ、タイミング悪かったな」
「ええ、まぁ」
蒼太は苦笑して頷いた。
「まぁ、わからんでもないがな。本当に惚れた女にはなかなか手をだせんもんだ。しかしよく我慢したなぁ……」
アキラは感嘆したかのように呟く。
「我慢したというほどでもないんです。居てくれてるだけで満足だったってのもありますから……」
「そうか? お前かわってんなぁ~」
「よく、言われます」
そういって、微笑み、まじまじと自分の顔を見つめているアキラに蒼太は逆に尋ねてみる。
「アキラさんこそ、紅葉さんのこと好きだったんでしょう? 付き合おうとか思わなかったんですか?」
アキラの眉がピクリとする。
「いじめないでよ。蒼太くん」
少しすねたような顔になり、アキラは蒼太から目を逸らす。
「俺だってさぁ、結構まじで好きだったわけよ」
そうぼやくと、アキラはグラスに残っていたビールを一気飲みした。
「ずっと俺が守ってやるって思ってたさぁ。でもアイツ全然気付いてくんねーし、しまいにゃどっかいっちまうし」
アキラは完全にふてくされている。
「一緒にいたのが長すぎたのかねぇ。まぁでも結局さ……」
そう言って、アキラは蒼太の顔へ視線を戻した。
「俺じゃ駄目だったんだよ。紅葉にはお前って決まってたんだろなぁ……」
そう言うと、アキラはゴロンと仰向けに畳の上に転がり
「いゃん。柄にもなくロマンチックな事いっちゃったじゃないのぉ」
何故かオネェ言葉で言い残し、体を丸めこんだ。
「アキラさん?」
呼び掛けるが返事はない。