夜と紅と蒼と……
「お父さん呼んできてくれる?」
魚焼きグリルから、いい焼き色に焼きあがったアジの開きを出しながら母が言う。
紅葉は頷き、父を呼びに台所を出て、居間へ向かった。
居間の出窓から外を覗くと、むしり終わった雑草をひとまとめに集めている父の姿が見える。
「お父さん、御飯」
窓を開け、呼びかけると、顔を上げ額の汗を拭いながら父が振り返った。
「ああ、すぐ行くよ」
にこやかに返事をすると、父はすぐに家の中へ戻ってきた。
すっかり支度の整った食卓を三人で囲む。
――ごく当たり前の家族の風景。
だが、紅葉の胸には何か物足りない気持ちがあった。
空虚感。
一番側にいたい人がここにはいない。