夜と紅と蒼と……
「善は急げです。紅葉さん」
翌日、仕事から帰った蒼太は、紅葉の作った夕食をつつきながらにっこり笑って言った。
「え?」
「今週の休みは紅葉さんの家にいきましょう」
「ええっ?」
あまりに唐突だったので、紅葉は箸でつかんだ唐揚げを思わず落としそうになる。
「ちゃんと、ごあいさつしないと」
「思ったら即、行動?」
「はい」
ひたすらにこやかな笑みを絶やさずそう言う蒼太に反論する余地もなく、週末、二人で紅葉の実家へ行くことになった。
思いのほか早く家に戻ってきた紅葉に両親は驚いたが、蒼太が一緒に来たので、事情は察したらしい。
互いに挨拶を交わし、一緒に食事をとることになった。
七つも年下の蒼太と結婚することに、両親が心配して反対するのではないかと思っていた紅葉だったが、食事中、蒼太がそのことを申し出ると、両親はおもいのほかあっさりと承諾してくれた。
「あなたが選んだ人なんだから大丈夫」
母はそう言い、父はその横で頷いている。
なにより、みるからに誠実で、落ち着いた物腰の蒼太を、両親はひとめで気に入ってしまったらしい。
「手のかかる娘だが、宜しく頼みます」
頭までさげる父に紅葉も蒼太も驚いて、慌てて父に頭をあげるようにとりなした。