夜と紅と蒼と……
「じゃあ、お願いします」
紅葉はそう言って、トラックが出て行くのを見送る。
「パパ。わたしたちもいこう?」
娘にそでをひかれ、蒼太はじっと見つめていたノートの表紙からハッと目を上げた。
「あ、ごめんごめん。そうだね、行こう」
笑顔で答え、名残おしげにもう一度ノートの表紙に殴り書きで書かれた文字に目を落とす。
――ヨルノウタ
思い出深い。昔つづった詩のタイトル。
大切な人と共に歩くことを決めた夜に思いついて、忘れないようにと傍らにあったノートに書きとめたもの。
あれから随分経ったが、今も思いは色あせることなく、いや、更に深いものとなって、この胸の中で淡い光を灯している。
ノートを片手に、幼い娘の手をとり立ち上がり、蒼太は、その明かりを灯しつづけてくれているその人の下へ向かう。
「行きましょう。紅葉さん」
声をかければ、振り返る。
フードとサングラスの下に覗く真っ白な肌に生える薄桃色の唇がにい、と笑う。
「うん。行こうか」
――やっぱり、綺麗だ。
蒼太は思った。