夜と紅と蒼と……
「こっちは何?」
尋ねた紅葉を振り返り、蒼太はニコリと笑って見せた。
「ああ、それはUVカットフィルムです」
「ふーん……UVカットフィルムねえ~……って!?」
「奥の部屋の窓に貼ろうと思って。遮光カーテンもあります。紅葉さんには必要でしょ?」
何気なく漏らしたその品物の名前が、そう日常的に一般の人が買うものではないと気がついた紅葉の驚いた声に、蒼太は笑顔のままさらりと返す。
その返ってきた答えが、まさかと思った自分の為の買い物であることを確定付け
『なるほど、本当によく調べたもんだ』
思わず紅葉は唸った。
調べるといっても昨夜から今朝までの間しかそんな暇はなかったわけで、つまり、これが今ここにあるということは、蒼太は調べてすぐ買って来たと言う事になる。
「……なんというか、まあ、確かに必要ではあるんだけど。でもそれってさ、あたしがここにいるの嫌だっていったら無駄だったんじゃ……」
「そうですねぇ」
そう言いながら蒼太は器用に魚をおろしていく。
「駄目なんですよね。思い立ったらすぐやらないと気がすまない性分らしくて」
「はぁ……」
ちょっと呆れて紅葉は蒼太を見た。
この青年は、その物静かな外見や話し方に似合わず意外と行動派らしい。
「にしても、準備よすぎ」
「そうですね。いや、良かったですねぇ……無駄にならなくて」
他人事のように、そう言って笑う蒼太を見ていたら、紅葉は何だかおかしくなって一緒に笑ってしまった。
「あんたのほうがよっぽど面白いよ?」