夜と紅と蒼と……
楽しい夕食の時間はあっという間に過ぎ、食事の後片付けが終わる頃、紅葉は駅まで自分の荷物を取りにいくことにした。
昨夜、宿探しの途中で蒼太に会って、そのまま泊まってしまった為、駅のコインロッカーに預けっぱなしだったのだ。
「一緒に行きますよ。荷物、重いでしょ?」
一人で行くつもりでいた紅葉に、ごく当然の様に蒼太は言った。
「いいよ、ひとりで……」
「道、わかります?」
確かに、いまいち怪しかった。昨日はそうとう歩いたから、いまいち自信はない。
ありがたく甘えることにして、蒼太と二人で部屋を出ると、外は雨が降っていた。
「まだ、やんでなかったですねえ」
濡れる景色を見ながら蒼太が呟く。
「さっき買い物に出た時も降ってたんです。幾分、雨足は和らいだようですけど……」
蒼太の言葉を聞きながら、先ほど夢の中で聴いた雨音はこれだったのかと、紅葉がぼんやりしていると
「すみません、傘一本しかないんです」
紺色の傘を広げて、蒼太が手招きしていた。
「充分充分」
にい、と笑みで返して、紅葉はスルリと蒼太の隣へ体を滑り込ませる。
「歩いてだと三十分くらいかかりますけど、バス乗ります?」
アパートを出て坂道を下っていくと、昨日、二人が出会った公園を通りすぎた所にバス停が見えた。
「うんにゃ、いい。歩こ」
「はい」
紅葉の一言でそのままバス停を通りすぎる。
どちらも、歩くのも悪くない……そんな気分だった。
二人並んで歩いて坂道を下る。