夜と紅と蒼と……
気のせいか早くなる鼓動を感じて、口を閉ざし、俯き加減で歩く。しばらく歩き続け「もうすぐですよ」
蒼太に声をかけられ、紅葉が顔をあげると、前方にキラキラと派手なネオンに飾られた建物が見えた。
「あ~っ!! あれあれ!! あれに騙されたんだよ」
「パチンコ店ですね」
駅前の大きなパチンコ店は色とりどりの灯りと電光掲示板に飾られ、そこだけ昼間の様に明るい。
「電車から見たら、大きな街に見えたんだよねぇ」
紅葉はため息まじりにそう漏らす。
町から町へ移動するとき、紅葉はいつも、夕方暗くなってからを選んでいた。もちろん、紫外線対策の為だ。
「大きな街に見えたんだけどなぁ」
紅葉はそう言いながら恨めしげにネオンを見つめた。
いつも、行き先は決めてない。電車の中から見える明かりをたよりに、大きそうな町で下車してその日の宿を探すのがいつものパターン。
それが仇になったのだ。きらびやかな灯りにまんまと騙されてしまった。
「まいったよ。なんにもないんだもん」
思わずふくれっつらになる紅葉。それを見た蒼太は声をたてて笑いながら言った。
「でも、おかげで紅葉さんに会えた」
「む……よくそんな台詞がすらすらでてくるねぇ。実は結構悪いオトコなのか?」
「そうですねぇ。かなりの極悪人かもしれませんよ?」
にこにこしてそう言う顔は、どう見ても極悪人には程遠い。
それにしても実に爽やかに、けれど結構恥ずかしいことをさらりと言ってくれるものだ。
なんとか上手く返したものの、おさまりかけてた鼓動がまた跳ね上がるところだったと、紅葉は内心苦笑する。
『ほんと、変な奴』