夜と紅と蒼と……
無事駅に辿り着き、自分の荷物をロッカーから出してきた紅葉は、蒼太を構内にあるファーストフード店へと誘った。
雨の中歩いたせいで体も冷えたし、食事と道案内をしてくれたお礼もしたいからと、ホットコーヒーを二つ頼み、一つを蒼太に差し出す。
「お礼なんて……」
蒼太はそう言って遠慮したが
「あたしの出すコーヒーは飲めないとでも?」
そんな、半ば脅迫めいた台詞とともに押し付けられ、店内の窓際に設置されたカウンターに並んで座り、ありがたくご馳走になることにした。
実際体は結構冷え切っていたらしく。喉を通り落ちていく液体の熱が、じわじわと体温をあげてくれるのが分かる。
カップが空になる頃にはすっかり温まり、紅葉が飲み終えるのを待って店を出た。
帰宅しようと再び駅の出入り口へむかったのだが……
「うわ……」
そこから出た途端目にした光景に、蒼太は思わず声をあげた。
視界を覆い尽くす水のカーテン。
先ほどとはうってかわって激しさを増した雨が、地面にぶつかり派手に水しぶきを上げている。それだけではない。雷も時々遠くに光を走らせている。
「参りましたね……これじゃ一本じゃ間に合いませんね。中の売店でもう一本傘を……」
紅葉の黒いボストンバッグを肩に担いだ蒼太は、そう言いながら横に目を向けた。
ところが、さっきまで隣で歩いていたはずの紅葉の姿が見当たらない。
「紅葉さん!?」
あわてて周囲に目を走らせた蒼太はすぐにその姿を見つけたが、その瞬間、目を見開いた。
紅葉は激しい雨のまっただ中、まるでシャワーを浴びているかのように気持ちよさげに空を仰いでいるではないか。
「何やってんです!?風邪ひきますよ!!」
「へーきへーき」
呑気な返事と共に振り返った顔はとても楽しそうで、雨の中、わざと外で走り回る子供を連想させる。
「こんだけ降ってりゃ、どうせ傘なんか役に立たないって」
「でもですねえ……」