夜と紅と蒼と……
最もな言い分ではあるが、それではさっきホットコーヒーを飲んで暖まったのが全く無駄になってしまうのではないか?
力が抜ける。
脱力してがくりと一瞬なってしまったが、紅葉はそんな蒼太の様子などお構いなしで歩き出す。
「いいからいいから。蒼太くんはあたしの荷物だけしっかり守るように」
鼻歌まじりでどんどん先に行く紅葉に、説得するのを諦めた。
どの道もうずぶ濡れ。手遅れには違いない。
仕方なく大人しく荷物だけを守りながら後を追う。
~~っくしゅん!!
「ほら、だから言ったのに」
案の定、玄関で豪快にくしゃみする紅葉にタオルを持って来ながら蒼太は溜め息をついた。
「子供じゃないんですから」
「その言い方なんか生意気」
「いいから黙ってじっとしてて下さい」
子供扱いされたことに不満げな紅葉にかまわず、タオルで頭を拭いていく。
「自分でするよ」
「いいえ、ちゃんと拭かないと駄目です」
「自分でできるのに」
ぶつぶつ言いながらも、紅葉はおとなしく蒼太に拭いてもらっている。
「シャワー使って暖まって下さい。お湯、すぐ出ますから」
丁寧に髪を拭きあげると、タオルを手渡しながら、蒼太は言った。
「あれー? 体は拭いてくれないの?」
紅葉が、ちょっと意地悪げに笑いながら言う。ささやかな仕返し?というやつだろうか
「さすがにそれはマズイでしょう?」
「ふぅん?」
蒼太がちょっと困り顔をしてみせると、満足げに笑い、紅葉は軽く体を拭いておとなしく浴室へ向かった。