夜と紅と蒼と……
『やれやれ……』
軽く溜め息をついて紅葉の荷物を部屋へ運ぶと、自分も濡れた服を脱いで着替える。
紅葉が言ったとおり、確かに傘はあまり役にたたず、荷物はなんとかあまり濡らさずにすんだものの、蒼太は結構濡れてしまった。
着替えをすませ、台所へ行きホットミルクを用意する。
鍋に沸き立つミルクの泡を眺めていると
「ねーねー着替えちょうだい」
不意に背後から紅葉の声がした。声の方を振り返ると、浴室のドアが少し開いて、白くて細い腕がにゅっとつきだされている。
「あ、すみません」
玄関から浴室へ直行だったために着換えを持っていってなかったことに気付く。
すぐにコンロの火を止め、着換えを取りに部屋へ向かったが、勝手にバッグを開けるのは躊躇われたので、バッグごと持ってきて紅葉に手渡した。
「後ろ向いてますから」
「ありがと」
紅葉がバッグを受け取ると、そちらに背をむけたまま流し台へ戻り、カップを持って部屋へ退散する。
テレビをつけて、しばらく待つと着替えを終えた紅葉が居間へ入ってきた。
「お先に~」
ティーシャツに短パンというラフな格好で、まだタオルで髪を拭きながら、にっと笑う。
短パンから覗くスラリとした足が、暖まったせいでほんのり桜色に染まって……蒼太はドキリとして目を逸らし
「どうぞ」
なんとか平静を装い、カップを差し出した。
「気がきくねぇ」
紅葉は嬉しそうにカップを受けとると、畳の上に腰をおろし、ミルクに口をつける。
肩にかかる白い髪がまだ濡れている。