夜と紅と蒼と……
「それにしても早かったですね? 電車で来たんですか?」
「違うよ。今日父ちゃん町に用事あるって。だから近くまでトラックで送ってもらった」
「帰りは?」
「電車!! 父ちゃん昼くらいに帰るって言ってたし、俺、にーちゃんともっといたいからさあ……電車で帰るって言っといた」
緑が蒼太のことを大好きなのは紅葉から見ても良くわかる。
緑はこの随分歳の離れた優しい兄がとても好きだった。
蒼太が高校卒業と同時に家を出て町へ行くといった時は大泣きしたほどだ――
だから、家から電車で一時間ほどかかるこの町まで、休みを利用して、時々遊びにくるのだった。
「それよりさ……え~と……」
「紅葉だよ。ク・レ・ハ。宜しく、緑 」
緑に視線を向けられ紅葉はニッと笑って自己紹介をする。
「紅葉はにーちゃんの彼女なのか?」
「うんにゃ。おとといから緑のにーちゃんにお世話になってる、ただの居候」
「いそーろー?」
「あたし今家がなくってね。困ってたのを蒼太が助けてくれたんだ」
「ふーん……まあ……兄ちゃん、結構いい奴だからな」
「うん。緑はラッキーだねえ。こんなにーちゃんいてさ」
紅葉がそう言うと、緑はとびきり嬉しそうな顔で笑った。
「あ!! 俺いいもん持ってきたんだ。紅葉も一緒に食べよ? はい、にーちゃんこれよろしく~」
すっかり上機嫌になった少年は、そう言って四角い白い箱を蒼太に渡すと、紅葉の手を引っ張ってどんどん居間の方へ歩いていく……