夜と紅と蒼と……


 大好きな兄を誉められたのがよほど嬉しかったらしい、緑は紅葉がすっかり気に入った様だ。
 居間のテーブルにつくと紅葉の真正面に陣取り、興味津々で紅葉に話しかける。
「なんでサングラスなんかしてんの?」
「お日様が苦手なんだ」
「どーして?」
「うーん……」
 ちょっと思案して、紅葉は眼鏡をはずした。
「うわわわ!!」
 現れた赤い瞳に、緑はびっくりして叫んだ。
「すげーや!! ビー玉みてー。ホントにガイジンさんじゃないのか?」
 心底驚いた顔でまじまじと紅葉の顔を覗きこむ。
「日本人だよ。ただねぇ、遺伝子ってのがちょっと人と違ってね。だから色が足んないの。目もこんなんだから、眩しいのが苦手なんだ」
「遺伝子……うーん?」
 なるだけわかりやすいように言ったつもりだったが、やはり緑はよくわからない、といった顔で考えこんでしまった。
 この体質を説明するのは大人相手でもややこしい。仕方ないだろう。
 うーん、と一瞬唸ってみせた緑だったが
「俺、まだ小三だからさ、習ってないからわかんないけどさ……」
 次の瞬間には、もう満面の笑みになっていた。
「でもなんかすげーよな!! めちゃくちゃキレーだ」
 突拍子もなくずれた答えに紅葉は面食らう。けれど、その台詞を聞いて
『綺麗……?』
 紅葉は蒼太に初めて会った夜を思い出した。


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