夜と紅と蒼と……



 納期が近い品物の対応で三時間近く残業して、ようやくタイムカードをおしたら、もう二十二時を少しまわっていた。
「お疲れ蒼太。また来週なー」
「お疲れ様でした」
 蒼太は作業場のシャッターを下ろしながら声をかけてきた工場長に会釈すると、作業服のまま工場の入り口へと足を向け歩き出した。
 夜も遅い時間。帰路へつく蒼太の頬を、ひやりとした空気が撫でる。
 見上げた闇色にちかちかと瞬く控えめな光。
 それを見て、ふ、と軽く息を吐き歩みを速める。
 山奥の小さな村で育った蒼太が、高校卒業してすぐ、就職の為この街へ越してきて3年ほどたつ。
 就職先の印刷工場は従業員が四十名ほどのアットホームなところでなかなか居心地がいい。仕事にもずいぶん慣れた。
 蒼太のアパートは工場より少し登ったところにあって、アパートのすぐそば、帰り道の途中には昔からある小さな公園がある。
 ブランコと滑り台しかないが、高台にあるので見晴らしのいいその公園のベンチで、仕事帰りにビールを飲みながら一人夜空を眺めるのが蒼太のささやかな週末の楽しみだ。
 今日は金曜日。
 明日からの休みを前に、自然と足どりも軽くなる。


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