夜と紅と蒼と……
――そして、一週間。
うっかり泣いてしまったあの夜の翌日は、なんだか蒼太の顔を見るのも気まずかったのだが……蒼太は、はじめと変わらない態度でずっといるので、なんだか拍子ぬけしてしまう。
『どうやら一目惚れだったようなんです』
あんなことを言っておいて。キスまでしておいて。
「まぁ、ほっぺただけどさ」
紅葉は、蒼太が作ってくれていた朝食のサンドウィッチを、ひとり頬張りながらつぶやいた。
蒼太は毎朝6時半には仕事へ出ていく。紅葉は朝が遅いので、いつも目を覚ます頃には蒼太はいない。朝早いのに、蒼太は毎日朝食を用意してくれていた。
あれから蒼太は、自分が言ったことに対する紅葉の答えを聞くそぶりさえみせない。
まるで何もなかったかの様に普通の会話しかしない。
そんな調子なのでなんとなくそのまま居座ってしまった。
『ひまだな――』
蒼太のいない部屋は、とても静かで広く感じる。
此処へ来てからというもの、なんとなく仕事を探す気にもなれず、だらだらと過ごしいる。
『何考えてんだろ?』
常に頭の中は、蒼太の事でいっぱいだった。
あれ以来、キスすることもないし触れてくることもない。ただ、ひたすら優しい。それだけ。正直、どうしていいのかわからない。
『で、あたしはどうなんだ?』
自分の気持ちとなると更に難しかった。
蒼太の側にいるのは心地いい。信じたい……そう思ったのも確かだ。
だけど、それが恋なのかと問われると、自信がない。
『優しくされたからって、その気になってるだけじゃないのか? 相手は七つも年下なんだぞ』
自分を牽制する声が常に頭の中にあった。