夜と紅と蒼と……
電話をかけてきた時は元気だったアキラの声が、律子の事を聞かれた途端、気不味気な声になった。
「今、別居中」
「はぁ!?」
「いやぁ~あいつ最近うるさくてさ、音楽じゃもう食ってくの無理なんだから働けとかなんとか…で大喧嘩して今俺さ、実家に帰ってんの」
「……嘘だ」
もっともらしい理由をぺらぺらと話すアキラ。その言葉を、紅葉は即座に否定した。
ギタリスト志望のアキラが、プロのミュージシャンになれるよう全面的に支援すると、律子はいつも言ってた。
頭が良かった律子は看護婦になって、わりと大きな病院で結婚後も働いている。収入に困ることはないだろう。
第一、今更そんなことを愚痴るようなタイプではない。
「うーん。やっぱ紅葉には通用しないか……」
「当然でしょ」
紅葉はため息まじりに言った。
「で、ホントは?」
「まぁ、なんだ。あれだ、男の悪い癖というやつだ。ほんのちょっと遊んじゃったら見事にばれちゃってねぇ~」
観念したかの様に正直に申告して、電話の向こうで笑ってる。
「馬鹿者」
あきれて怒る気も失せる。