夜と紅と蒼と……
聞かれるままに、紅葉は今どこにいるか。ここにいたった経緯と蒼太のことをアキラに話した。そして、一通り話し終えると本題へと切り出した。
「どう思う?」
「どうって何がよ?」
「あたしは、狐かなんかにばかされてるのかね?」
「ぶっ……!!」
電話の向こうでアキラが吹き出す声が聞こえる。
「いや、冗談じゃなくて。ホントにそんな気分なんだけど」
「馬鹿、お前そりゃ向こうは本気でお前に惚れてんじゃないのか?」
「でも、一週間近く一緒に住んでるのに、なんも、ないし……」
最後の方は少し口ごもりながら紅葉は言った。改めて、そういう事を幼馴染に、しかも異性の相手に話すというのは思いのほか恥かしく感じる。
だが、アキラには恥じらいなど無縁だったようだ。
「何言ってんの、好きだから簡単に手が出せないんじゃないの? 俺もそういうの良くわかるわー……」
能天気な声で、いけしゃあしゃあとそんな返事を返してきた。
「……なんか、あんたが言っても全然説得力ないんだけど」
浮気して別居中の男には全く似合わない台詞。よくそうも堂々と言い切れるものだ……
「きっついな~紅葉は!!」
そう言いながらもまだアキラは笑っている。
「~~あんたに聞いたのが間違いだった。そもそも蒼太と全然タイプ違うし」
真面目に相談したのに、茶化されたような気がして、紅葉はちょっとむくれて言ったものの……確かにアキラと蒼太はタイプが全く違う。わからなくとも無理はない。そう思えば自然と納得もいく。
そんなふうにうだうだ考えているうちに。
「ま、怒んなよ。近いうちそっち、会いに行くからさ」
そう言い残してアキラは電話をきった。
「は……?」
――会いにくるって ?
「何考えてんだ?」
今まで、電話はちょくちょくあったが、会いにきたことはなかったのに……
「どいつもこいつも訳わかんないや」
紅葉は携帯をテーブルに投げ出すと、深くため息をついた。