夜と紅と蒼と……
驚いたのと、相手のあまりに自然な所作につられるように。
気がつくと言われるがままにビールの缶を差し出していた。
「ありがと。あんた、イイコだね……歳いくつ?」
屈託なく笑い、それを受け取り隣に腰掛ける人物を自然と目が追ってしまう。
見たところ歳は蒼太とあまり変わらないくらいに見えるのだが……
そんな相手に『イイコ』よばわりされたのにちょっとムッとして蒼太は問いかえした。
「二十一ですけど…そういうあなたはいくつなんですか?」
「あれ? なんでムッとするかな? あたしはねぇ……二十八だよ」
「え……?」
何気なく返された言葉に含まれた単語に気付き、からからと笑う相手の顔を見返す。
『あたしって……』
初めて見た瞬間は。
瞳の色と髪の色が強烈過ぎて、性別云々を考える余地すらなかったのだが……
なるほど言われてみれば、黒い半袖のティーシャツにジーンズというラフな格好ではあるものの。
そこから覗く細い白い腕。
肩くらいに無造作にカットされた髪の中の華奢ですっきりと整った小さな顔は、確かに女性そのものだ。
しかも決して童顔ではないのに、何故かどうみてもそんなに年上には見えない。
「……」
思わず返す言葉を見失って、おもむろに顔まで目線をうつしたところで。
そこにある猫の瞳のように大きな紅い瞳にまた目を奪われてしまった。
『綺麗だ……』
そんなことを思ってしまってる自分に
『……やっぱり僕は酔ってるんだ』
ふるふると、軽く頭を振る。
なんだか夢の中にでもいるような不思議な感覚に陥って、それを酔いのせいにしようとしてみた。
見も知らない人とこうして、夜の公園で飲んでる事自体、蒼太にとってはありえない事だったし、さらにその相手の存在自体が不思議と驚きに満ちている。