夜と紅と蒼と……





「蒼太、こっち」
 食事を終えた蒼太がシャワーを浴び部屋に戻ると、奥の寝室から紅葉に呼ばれた。
 紅葉は開け放たれた窓の向こうの小さなベランダから蒼太を手招きしている。
「ほい」
 呼ばれるままにベランダへ行くと、紅葉からビールの缶を手渡された。
「明日、休みでしょ?」
「ありがとうございます」
 素直に礼を言って、蒼太はビールを受け取る。
 外へ目を向けると、ここのところ雨ばかりでお目にかかれなかった星空が、今夜はちかちかと小さな光を瞬かせていた。

「そういえば、お金……大丈夫ですか?」
 ビールを開けようとして、今日の夕食のことも思いだし、蒼太は尋ねる。
「ふっふっふっ。心配は無用だよ蒼太君。あたし家も仕事もないけど、小銭は結構持っているのだよ」
 すると、不敵な笑みを浮かべて紅葉は手に持った携帯を蒼太にちらつかせてみせた。


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