夜と紅と蒼と……


「今は便利になってねぇ。これさえあれば色々と小銭を稼ぐことができるのだよ?」
「そうなんですか……? 僕はあまりそういうのは詳しくないんでわかりませんけど……、でも、あんまり無茶はしないでくださいね」
「大丈夫。大丈夫。あぶないようなことはやってないから」
 そう言って、紅葉はひらひらと手を振ってみせる。

 軽くおどけてみせて――

 手にした携帯に、ふと目を落とした紅葉が、少しの沈黙の後、口を開いた。
「今日ね、友達と電話で話したんだ……」
「友達?」
「うん。蒼太のこと話したら、いい人だねって言ってた」
 そう言って、紅葉は緊張気味の声で話し出す。
「あのさ、ごめんね」
「はい?」
 紅葉は携帯に目を落としたままだ。
「あたし、なんかズルイよねぇ ?ちゃんと返事もしないで、甘えるだけ甘えちゃってさ」
「ああ、そのことなら気にしなくていいって言ったのに……」
 あの夜のことを言ってるのだと、蒼太はすぐに気がついた。
「それを言うなら、謝るのは僕の方です」

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