夜と紅と蒼と……


 実のところ。当然といえば当然なのだが。勿論蒼太も、あの夜のことは少し気になっていた。
 勝手にキスして、気持ちを告げて――
「僕が勝手に気持ちを押し付けてしまって……すみません。困らせてしまいましたね」
「いや、違うって! 蒼太が謝ることないよ。あんな風に言われてびっくりしたけどさ……」
 逆に蒼太に謝り返されて、紅葉は焦ってとりなす。
「……嬉しかった。あたしなんかにさ」
 そう言って紅葉は照れたようにうつむいた。
 そんな姿がとてもいじましい……
「正直、僕もあんなことしてしまって……紅葉さんもう此処にいてくれないかもしれない、なんて、ちょっと不安だったんです」
 黙りこんでしまった紅葉に蒼太はそっと語りかけた。
「でも、ずっと紅葉さん居てくれたから……なんかもう、それだけでお腹いっぱいというかなんというか……」
 のんびりした蒼太の口調が紅葉の緊張をやわらげる。
「ぷ……なんだそれ!」
 紅葉がふきだした。
 笑った紅葉を見て、蒼太も微笑む。
「一緒にいてくれるだけで充分です」
 目と目があった。
「ありがと。あたしもね、蒼太と一緒にいたかったんだ」
 紅葉がぽつりとつぶやく。
「蒼太といると、落ち着くんだ。でも……」
 なんと言えばいいか悩んで口ごもる紅葉の髪をそっと撫でて、蒼太は空を見上げて言った。
「いいんです、まだ。のんびりいきましょう?」
 見上げた星空が何だかいつもより、とても綺麗に見えて――

『星が落ちてきそうだ……』

 蒼太は思った。

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