夜と紅と蒼と……
「そうだ。明日も天気いいみたいですから、星でも見にいきませんか?」
「星? どこに?」
「もっと空が近い場所にです」
――翌日、紅葉は電車に乗っていた。
「どっちがいいですか?」
「コーヒー」
蒼太が差し出したコーヒーとお茶の缶の、コーヒーの方を受けとる。
缶のふたを空けながら、紅葉は目深に被ったパーカーのフードの奥から窓外へ目を向けた。
いつもは一人で乗る電車も、今日は蒼太と二人だ。並んで座っているので、電車の揺れに合わせて時々肩が触れるのが、何だかくすぐったい。
窓から見える景色が薄闇に染められていくのがサングラス越しでもよくわかる。
いつもは物悲しく見えた、そんな風景すらも、何故か柔らかで穏やかな印象で目に映った。
「ね、気分悪くならない?」
窓から視線をはずして、紅葉は隣で熱心に本のページを繰っている蒼太に声をかけた。
「乗り物で字読むと、気分悪くなるって良く聞くよね」
「そうですか? バスなんかでもよく読むけど気分悪くなったことはないですけど」
読んでいた本から顔をあげて蒼太は少し首を傾けて答える。