夜と紅と蒼と……
「蒼太ってさ、結構神経太いよね」
「はい?」
紅葉の言葉にさらに首を傾けて不思議そうな顔をする。
「結構見られてるの、気にならない?」
小声でそう言って、紅葉は斜め前方の座席にいる二人組の中年女性へ顔をむけた。
促されて蒼太が前方へ目線を送ると、何やらこちらを見てひそひそ話していたらしい二人が少し慌てた様子で顔を背ける。
「ま、いつものことだけど。きっとあることないこと言ってるよ、アレ」
紅葉はやや、げんなりしたようにため息をつく。
夕方の人の多い時間帯に電車に乗ったのだが、駅からずっと、あちこちから刺さる視線に紅葉は少々うんざりしていた。
フードを目深に被って隠しても、隠しきれない白い髪と白い肌にサングラス姿。
見られるのはいつものことだが、蒼太といるせいか余計人目をひくようだ。
「あたしみたいに得体が知れないのが、いい男といるのが、珍しいのかね」
ちょっと卑屈っぽく言う。
「あ、嬉しいですね。いい男って僕のことですか?」
蒼太は、やんわり笑みを浮かべてそう言った。
予想外の答えに力が抜ける。