夜と紅と蒼と……
「蒼太!! ……紅葉も!!」
二人の姿を確認して、緑が顔いっぱいに笑みを広げて興奮気味に声をあげた。
「父ちゃん!! お客さん!!」
奥へ大声で緑が叫ぶ。
叫んですぐに紅葉に飛び付いて緑は満面の笑みで紅葉の顔を見上げた。
「紅葉来てくれたんだ。まだにーちゃんのとこいるんだね!?」
「うん。あいかわらず元気だね、緑は」
紅葉も思わずつられて笑顔になる。
「こらこらちょっと落ち着きなさい緑」
引き戸の向こうから低く穏やかな声がして、大柄でずんぐりとした身体が現れた。
白いランニングシャツからのぞく太い首の上にはぼさぼさの短い髪とあごひげに囲まれた人のよさそうな顔。
「やぁ。おかえり蒼太。それに……」
紅葉のほうを見て、目を細めてその人物は微笑んだ。
「紅葉さんだね。緑に聞いてますよ。よくこんなところまで来てくれましたね。疲れたでしょう?」
「いや……来たというか、連れてこられたというか……」
口ごもりながら横目でちらりと伺うが、連れて来た当の本人は緑の熱い抱擁に応えている最中で、こちらのことはおかまいなしだ。
「父の熊蔵です、よろしく紅葉さん」
そう言って手を差し出す蒼太と緑の父親の名前に、思わず噴出しそうになって紅葉は慌てて両手で口を押さえる。
「はは……気にしないでください。皆笑うんですよ名前を聞くと。なにせこの風貌なのでね」
紅葉の様子に気がつき、熊蔵はすぐ助けをだしてくれた。ほっとして、紅葉は差し出された手と素直に握手をかわす。
「まあ、なにもないとこですがどうぞ、あがってください」
熊蔵に促されて皆で奥にある部屋へむかう。