夜と紅と蒼と……
風呂上がりの蒼太と緑が居間へ戻ると、紅葉と熊蔵が夕食の支度をしている最中だった。緑と蒼太もすぐに手を貸す。
四人でちゃぶ台を囲むのはなかなか賑やかでいいものだった。
紅葉の食べっぷりには、熊蔵も驚いた顔を見せて、そんな父親を見て蒼太と緑が笑う。
四人はそれぞれの思いで、家族らしい雰囲気を楽しんだ。
「紅葉、今日は泊まるんだよね。俺、布団用意するよ」
食事を終えて、しばらく談笑した後、緑がニコニコして言った。
「明日いっぱい遊んでよ」
ふすまごしに紅葉を振り返り、念をおして、奥の部屋へ姿を消す。
熊蔵は風呂へ行き、蒼太は片付けのため台所へ消え、紅葉はひとりになった。
手持ちぶさたになった紅葉は、居間の窓から外の縁側へ出てみる。山独特の静けさをまとう夜風が頬を撫でて気持ちいい。
庭に突き出した板張りの縁側に腰を降ろし足をぶらぶらとさせながら、裏庭に面した縁側から見える景色を見渡す。
円形に家を囲む背の高い木々が月の光を浴びて、長い影を地面に落としている。
空を見上げると、木々の隙間から覗く丸い星空に、熊蔵が描いた絵とよく似た三日月が浮かんでいた。
蒼太と母親の話を思いだし、紅葉は切ない気持ちでいっぱいになる。
「すみません。すっかり待たせてしまって」
不意に、背後から声をかけられ振り向くと、いつのまにか蒼太がいた。
「ん」
あわてて紅葉は蒼太に背を向ける。
泣きそうになってる顔を見られるわけにはいかなかった。