コンテニュー
切り裂かれた喉元からヒューッヒューッと気味の悪い音が聞こえてくる。

「なんだ、なかなか死なねぇな」

親父は、血と空気が噴き出ている喉を両手で押さえ、完全に怯えた目でこちらを見ている。

俺の挙動に、ビクッと反応する。だんだんそれが面白くなってきた。同時にやっぱりこいつと同じ血が流れているんだな、と絶望する。

ふと、志保が気になり、

「大丈夫......か?」と声を掛ける。

志保は蒼白な顔をこちらに向け、消え入りそうな声で、
「......う、うん」と震えながら返す。

露わになった胸と、はぎとられた下着を懸命に隠し、大丈夫だよ、と気丈に返す。
どうやら最悪の事態は避ける事が出来たようだ。

これで俺の人生を終わらせるための材料は十分だ。

その姿を見てそう感じた。


そこからは、志保をいったん俺の部屋へと連れていき、凄惨な現場から隔離する。

リビングの親父のもとへ戻ると、備えていた救急箱から包帯を取り出し、不恰好に応急処置を施していた。


もう声を掛けるのも億劫になっていた。

必死で抵抗を試みる親父の頭を思いっきり蹴飛ばし、倒れこんだところで腹に繰り返し蹴りを打ち込む。

10発までは数えていたが、あとは覚えていない。気が付くと、横たわって虫の息の親父がそこにいた。

息切れしていた呼吸を整えているうちに、頭はクリアになっていき、落ち着きを取り戻す。

親父に、
「これがお前が俺にしたことだ。」と冷たく言い放ち、右の太ももに思い切り包丁を突き立てた。

声にならない声がリビングに響き、少し間をおいて静寂が訪れる。

ああ、終わったな。でもこれで良かったんだ。倒れて動かなくなった親父を見下ろし、そう思った。

部屋に戻り、志保の着替えに、と俺の服を渡した。

部屋の隅でうずくまり、震えていた志保もまた怯えた目で俺を見る。

それは仲の良かった子供の頃に俺を見つめてくれた無邪気な眼差しではなく、得体のしれない何か別の生き物を見るような、絶望と不安に満ちた眼差しだった。

着替えが終わった志保に、ごめんな、と一言だけ声を掛け、送り出す。志保は無言のまま玄関を出ると夜の街の中に駈け出して行ってしまった。


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