コンテニュー
 この場所は小さい頃の憧れだった。

他のビルを眼下に見下ろし、まるでロールプレイングのラスボスの砦みたいで、いつだったか、友達みんなでパーティーを組んで冒険だ!と意気込んで乗り込んだこともあった。

あの時は勇者役の取り合いが凄かったっけ。俺は結局白魔法使いだった気がする。
結局最初のエンカウントで警備員に敗北し、こっぴどく叱られたが。
親まで呼ばれて、散々だったが俺たちは少しの後悔と、大きな達成感を感じていたな。

昔の事を考えているとなんだか心が休まる。

今頃は警察が俺を探している頃だろう。

家を出て数分後にけたたましいサイレンとともにパトカーが集結してきていた。
親父はもうどっちでもいい。生きていても奴の人生はもう取り返せないだろう。

志保の事が気がかりだったが、連絡するわけにはいかない。
これから先の人生で今日の事、そして俺の事を思い出すことがあってはならない。

それが傷つけてしまった事へのせめてもの慰めだと思った。

ただ気持ちを伝えられなかったことが悔やまれる。が、もうどうしようもない。

閉店間際のそのビルは、子供の頃突撃した時の印象よりも小さくさびれて見えた。

最上階までエレベーターに乗る。扉が開くと催事場があり今日は使われていなかったのか、がらん、とした空間が広がっている。

その広場の端に非常口のマークを見つけ、その案内に従い非常階段を目指す。

確か、こういうビルだと非常時に屋上へ逃げられるようになっていたはずだ、と考え試してみることにした。

どうやら考えは正しかったようだ。上へと続く階段の先に扉があり、緊急時以外の使用禁止と書かれた張り紙の下に、回転式のカギが付いている。

今を緊急時と言わずしていつ緊急と言う言葉を使うのだ、と変な理屈で自分を正当化し、カギを回す。

ガチャリ、と音が鳴りあっけなく扉は開く。すんなり屋上へと出れてしまった。

なんだか拍子抜けしたが、現実はだいたいこんなものか、と思い扉を閉める。

願わくば、今日この一夜だけでいい、ここを俺だけの空間にしてくれ。と祈る。

誰にも邪魔をされずに静かに過ごしたかった。見つかれば抵抗する気はないが、人生最後の夜をゆっくりと味わいたかった。








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