コンテニュー
最後の夜だ。


もう暗い過去はどうでもいい。
この先、生きていたとしても明るい未来は想像できない。

いつまでも親父の影に振り回される人生なんてごめんだ。
お母さんには申し訳ないが、これで終わりにすることを許してほしい。

携帯のメール画面に遺書を書いていく。

書きたいことは山ほどあったが、出てくるのは親父への憎悪と嫌悪ばかり。

俺の人生は何だったのだろう。ふと空しくなると同時に怒りがふつふつと込み上げてくる。

やばい、感情を抑えられない。

気が付くとすでに右手はコンクリートの壁を渾身の力で殴りつけていた。

一瞬の間をおいて激痛が走る。

体の中に響いた甲高い金属音が拳の何か所かが砕けたことを教えてくれる。

その痛みをきっかけに、目から涙が零れてくる。

痛みで泣いている訳じゃない。

これは悔し涙だ。

悔しくて、空しくて、どうして俺は普通の家庭で育たなかったんだろう?
周りと同じような家庭を望んで何が悪い?

お父さんとお母さんと三人で遊園地に行ったり、誕生日祝いをやったり、そんな当たり前を望んだ俺のどこが悪いんだ?

17年分の涙が溢れ出た。

ひとしきり泣いた後、つかの間、眠りに落ちた。

そこには笑顔で俺を抱きしめ、「愛してるよ」と無償の愛で包んでくれる母親がいた。

拳の痛みが優しい世界から現実に引き戻す。

書きかけの遺書を完成させた頃には夜が明けていた。

遠くに昇る朝日が、オレンジから青に変わるまでぼーっと眺め、早朝の澄んだ空気に包まれた街を見ながら、そろそろいいかな、と腰を上げる。

最後に一度だけ、携帯をオンライに接続する。

これで警察に俺の居場所は伝わっただろう。

物凄い数の着信と、メールの数だった。

こんな俺を支えてくれた友人たちに充て、「悪い、先に行くわ」と一斉送信し、金網に手を掛けた。
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