心を全部奪って
人事異動と歓迎会
「朝倉さん、これ大至急でコピーお願い」
「はい」
私が席に着いて10秒もしないうちに、用事を言い付ける同じチームの営業マン。
当の本人はと言うと、喫煙コーナーに直行だ。
それ以前に、おはようの挨拶すらなかったよね。
まぁ、仕方がない。
これが私の仕事なんだから。
コピー機の前に立ったまま、チラリと販売促進部に目を向ける。
ウチの会社は広いワンフロアの中に、それぞれの部署がパーティションで区切ってある。
だから角度によっては、工藤さんの姿を見る事が出来るんだ。
あ、いた。
今日はグレーのスーツなのね。
オフィスで仕事をする工藤さんは格別にかっこいいから、思わず目を奪われてしまう。
じっと見つめていたら、私の視線に気づいたのか、工藤さんとバチッと目が合ってしまった。
にっこり微笑む工藤さん。
そんな工藤さんに一瞬だけ口角を上げると、私は自分の席へと戻った。