心を全部奪って
両手で顔を覆い隠して、


声を上げて泣いた。


もう、頭の中がグチャグチャだった。


ここがどこなのか、誰といるのか。


そんなことさえわからなくなるくらい、


私は泣くことに没頭していた。


厳しい父の顔が、脳裏に蘇っていた。


いつも怒鳴ってばかりの父。


小さい頃からずっと、


私が何をしても気に入らないみたいだった。


怒られないようにするのに、いつも必死だった。


顔色を伺って、なるべく会わないようにして。


注意深く生活していた。


そうこうしているうちに、


どうやって笑うのか、


笑い方がよくわからなくなっていた。


大学を東京に決めたのは、父と離れたかったから。


もう二度とあんな生活はいや。


ただただ、平和に暮らしたい。


優しく言葉をかけてくれる人がいい。


静かで、穏やかで。


絶対に怒らない人がいい……。

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