心を全部奪って
ここは俺の姉貴の嫁ぎ先。


高校卒業と同時に上京した姉貴は、東京の美容専門学校に通い始め、卒業後美容師になった。


在学中に知り合った同級生の義兄さんと5年の交際の末に結婚して。


今は夫婦でhair salon Senaという名前の美容院を経営している。


この美容院は住宅街の中にひっそりと建っているお店だけど、


義兄さんの腕が良いせいもあって、芸能人がお忍びで来店することもあるらしい。


「拓海。何かあったのか？」


義兄さんが、俺の首にケープを巻きながら言った。


「どうして？」


「なんか、あんまり元気ないから」


「そんなことないよ。

仕事帰りでちょっと疲れてるだけ」


今、夜19時を回ったところ。


閉店間際の誰もいない平日の美容院。


音楽はかかっているけど、なんだか不気味なほど静かに感じた。

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