心を全部奪って
「そう言えば、この前話してた会社の女の子はどうなった?」


「え?」


「ほら。拓海、話してただろう?

社内不倫している女子社員がいるって」


「あー…、うん。

実はあれからさ。

俺、その子と同じ部署に異動になっちゃって。

しかも、隣のデスクになったんだ」


「えっ、まじ?

そりゃまた随分近づいたんだな」


近づいた…か。


義兄さんの言葉に、俺は思わず苦笑いした。


「ホント、そうだ。

近づき過ぎたんだ。

裕樹アニキの言う通り、そっとしておけばよかった…」


「え、まさかお前…」


「うん…。

俺、あんたが不倫していること知ってるんだぞーとか。

やめておいた方がいいとか、まぁ色々言っちゃって…。

結果的に、傷つけちゃった」


「はぁ~?何やってんだよ」


「だよね。

もう完全に嫌われちゃった。

俺のこと、大嫌いだってさ」


俺の脅しが口先だけだってわかったのか。


もう仕事以外、口も聞いてくれなくなった。

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