心を全部奪って
「だから言ったろ?

見て見ぬフリしてやれって。

不倫だけはな、本人が気づいてやめるのを待つしかないんだ。

周りがいくらやめるように言っても、かえって逆効果。

余計に盛り上がるだけだよ」


「うん…」


それはわかってる。


わかってるつもりだったんだけど。


「でも同じ部署の仲間だし、なんか見過ごせなくて。

どうにかして辞めさせたかったんだ」


早く…、目を覚まして欲しかった。


「うーん。
だったら、なおさら長期戦でいかないと」


「俺は裕樹アニキみたいに、気が長くないんだよ」


「そうか?

普段の拓海は冷静じゃないか。

なのにどうして今回は、そんなに焦ったんだよ」


「うーん…」


どうしてかな?


どうしてなんだろう?


「なんかさ。


あの子といると、イライラして来るんだ」


「イライラ?」


「どうして不倫なんかしてるんだろうって思うと。

なんかこう、胸の辺りがモヤモヤしてくるんだよ」
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