心を全部奪って
「あとさ…」


「まだあるんだ?」


クスッと目を細めて笑う義兄さん。


なんだかちょっと恥ずかしかったけど、俺はそのまま話を続けた。


「おとなしくて、口が固そうだし。

不倫してるなんて、絶対人にしゃべりそうにない。

そういう子だと、相手の男は不倫しやすいだろう?

絶対、いいように利用されてるんだ」


そんな卑怯な男のこと、純粋に想って。


バカ過ぎる。


「なぁ、拓海」


義兄さんが、鏡越しに俺の顔を見てにっこり笑う。


義兄さんは、俺の姉貴にはもったいないくらいのイイ男。


背も高いし、顔だってめちゃくちゃ整ってる。


その顔と体型で、高校生の頃モデルにスカウトされたくらいだ。


モデルはすぐにやめたらしいし、その頃の事は思い出したくないって言う義兄さんだけど。


義兄さんのお母さんが、その頃の雑誌を全部押入れに隠し持っていて。


姉貴はその雑誌をこっそり出しては、鼻の下を伸ばしながら眺めているらしい。


つまり俺の姉貴は、義兄さんにベタボレなんだな。
< 124 / 370 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop