心を全部奪って
「よし、そろそろ流そうか」


義兄さんに言われ、シャンプー台に向かう。


椅子がゆっくり倒れて、髪に温かいシャワーをかけられた。


俺はどうなんだろう?


不倫をしているあの子を、全く受け入れられていない。


あの子の心から、工藤課長を追い出すのに必死で。


あの子の気持ちを、ちっとも受け入れてあげられていなかったんだ。


それってあの子にとっては、存在を完全否定されたみたいに感じたのかな。


俺のこと、厳しい父親にそっくりだって言ってたもんな。


嫌われて当然かもしれない…。


シャンプーが終わって、ワシワシと髪をタオルドライされる。


「じゃ、鏡の前に」


シャンプー台の場所から、元の美容椅子に再び腰掛けた。


「じゃ、カットするね。

いつもくらいの長さ?」


「うん、お願い」


親戚が美容師だと助かる。


あんまり説明しなくても、ちゃんと良い仕上がりにしてくれるから。
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