心を全部奪って
「あの、霧島さん。

どこで降りるんですか?」


「僕?

僕はね、〇×駅」


「家族の人が、迎えに来てくれそうですか?」


「あー、それは無理。

僕、一人暮らしだから…」


「一人暮らし…」


〇×駅って言えば、私より3つ先かあ。


3つくらいなら、なんとかなるかなあ…。


「あの、送って行きます」


「え?」


「だって、そんなにフラフラじゃ、家まで帰れないでしょう?」


私の言葉に、チラッと私の顔を見る霧島さん。


目が真っ赤だけど、それでもやっぱりすごく綺麗な顔だなと思った。


「ごめんねー。助かる…」


そう言って、安心したようにまた目を閉じる霧島さん。


思わず、クスッと笑ってしまった。


霧島さんって、なんか憎めないっていうか。


ついつい許してしまいそうな、弟みたいな感じだよね。


ゆらゆら揺れる電車。


私も少しアルコールが入っているせいか、


下手すると眠ってしまいそうだった。

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